『薬物乱用防止』
神 戸 大 学 発 達 科 学 部
石 川 哲 也
薬物乱用は今なぜ問題になっているのか
覚せい剤乱用により検挙される人員は、平成2年から平成6年までは1万5千人前後で堆移していたが、平成7年より増加しはじめ、平成9年には19937人にもなるなど、第三次乱用期に入ったといわれています。第三次乱用期の特徴的なことは、中・高校生の補導人員が急増していることです。中・高枚生の薬物乱用による補導人員は、平成5年から増加しはじめ、平成8年には高校生では、220人となっており、平成9年には219人と横ばいにはなったものの、中学生は平成8年の21人に対し平成9年は43名となるなど、倍増しており、低年齢化を示しています。その後、教育や取締が強化されたため減少傾向が見えましたが、平成12年の1〜6月の検挙者数は中高枚生とも前年度の上半期の倍近くになってます。
このため、我が国では薬物乱用防止5カ年戦略を策定し、国を上げて薬物乱用問題に対し取組んでいます。
薬物乱用は、なぜいけないのか(青少年問題を中心として)
覚せい剤を中心とする薬物は、脳に作用し、人の行動や健康に大きな影響を与えます。また、薬物の売買は、莫大な利益をもたらすため、それに関係している暴力団の資金源となり、社会の安全に脅威を及ぼします。
薬物の有害性・危険性の本質は、依存にあります。依存とは、薬が切れたときに、薬を使用したときの感覚をまた味わいたいと思ったり、いようのない疲れを感じたり、手足が震えたり、汗が出たり吐き気がしたりして体や心が薬を頼るようになり、薬を止められなくなります。このため、薬を手に入れることと薬を乱用することが中心の生活になり、社会生活が円滑に送れなくなります。また、乱用を続けると、精神病の状態となり、幻覚や妄想が現れます。このための凶悪な犯罪も起きています。さらに恐ろしいことには、いったん精神病の状態になると、その記憶は脳に残っており、治療を受けて正常な状態に戻ったと思われていても、酒を飲んだり、ストレスを感じたりした場合に、突然幻覚や妄想が現れることがあります。つまり、潜在的に乱用者の脳に残ってしまうのです。
青少年の薬物乱用か問題となるのは、青少年期はまさに人格の形成期です。個人個人が楽しいことや苦しいこと悲しいことなどいろいろな経験をして、自分の価値観を作り上げていく時期です。それらの経験こそが人格を作り上げる基になるのです。自分の価値観を形成し、それらが社会とうまく合わなくて、壊されていく。また、創りあげるという、形成と崩壊の過程をなんども経て、人格というのは磨かれていきます。
しかし、薬物は、そうした経験からの逃避に使われます。また、薬物中心の生活になるとそうした経験を経ないで成人となります。このような場合、人格の形成が遅れたり、まったくなされていない場合があります。ひどい場合は無動機症候群といって何もする気がない状態になります。青年期の薬物乱用は、このような特有の現象があり、これらは、大人になってからは獲得できない資質であり、治療は非常に困難となります。
青年期の薬物乱用が非常に問題視されるのはこのようなことからです。
薬物に対して青少年は、どのように感じているか。
文部省は、薬物乱用防止教育を効果的に進めるため、全国の小学校5年生から高等学校3年生まで約8万人を対象に「児童生徒の覚せい剤等の薬物に対する意識等調査」を実施しました。
私が、最もショックを受けたのは、児童生徒の「薬物に対する考え」の調査です。
薬物を使用することについて「他人に迷惑をかけていないので使うかどうかは個人の自由である」及び「心や体への害がないのなら一回ぐらいは使ってもかまわない」と思う児童生徒が学年があがるに連れて増加し、高校3年の男子では、20%に達するなど、薬物を容認するような態度が見られました。
この調査から、分かったことは、学年が上がるほど、児童生徒の薬物に関する学習経験が豊かであり、薬物に対する使用・所持に対する法律に関する正しい知識や危険性・有害性に関する認識を持っているにもかかわらず薬物に対する罪悪意識は低く、薬物に対する容認的な態度を示すようになっています。このため、薬物乱用防止対策を進めていくためには、正しい知識を普及するとともに、薬物乱用は絶対にしてはいけないし、許されないことだとの認識をもち、薬物に手を出さない態度を身につける必要があることが分かりました。
私の学枚は、「乱用者がいない」ので薬物乱用防止教育はいらないとの考えは間違っていることは明確です。
*こちらは宮崎県薬剤師会に寄せられました石川哲也先生の文章より引用させていただきました。
[『薬物乱用防止』]